多摩川精機
■ 多摩川精機とは?
多摩川精機株式会社は、長野県飯田市に本社を置く、日本を代表する精密制御機器メーカーです。特に航空・宇宙分野で高く評価されており、小型で高精度なセンサーやモーターの分野において、国内外で高いシェアと信頼性を誇ります。

■ 企業概要
項目 |
内容 |
設立 |
1938年(昭和13年) |
本社所在地 |
長野県飯田市大字下殿岡 |
主な事業 |
航空・宇宙機器、産業機器、防衛装備、鉄道関連機器、ロボット用制御機器 |
スローガン |
「見えない力で未来を動かす」 |
従業員数 |
約2,000名(グループ全体) |

■ 歴史と背景
◉ 創業からの歩み
1938年、東京・多摩川の地で創業された同社は、当初は電気機器の製作所としてスタートしました。戦後の復興期には、電気計測器やサーボ機構といった精密機械制御の技術を活かし、航空機や産業機器分野へと活躍の場を広げていきます。
1950年代以降、航空・宇宙産業が活性化する中で、防衛庁(現:防衛省)やNASAなどのプロジェクトにも参画。以降、**「日本の高精度制御技術の中核企業」**として存在感を高めていきました。

■ 主な事業領域
① 航空・宇宙事業
- 航空機用姿勢センサー(ジャイロ、加速度計)
- フライトコントロール用のアクチュエータやサーボモーター
- 人工衛星用の姿勢制御装置
→ JAXA(宇宙航空研究開発機構)やボーイング社などの大手航空宇宙関連企業にも製品を供給しており、日本の宇宙開発を支える重要企業です。
② 防衛装備関連
- 自衛隊向けのレーダー旋回装置やミサイル追尾制御用部品
- 潜水艦や戦車向けの位置センサーやトルクモーター
→ 精度と耐環境性能が極めて高く、ミリタリーグレードの品質を求められる中で評価を得ています。
③ 産業用ロボット・自動化機器
- ロボット用エンコーダ、位置センサー
- サーボモーター、ブラシレスモーター、アクチュエーター
- 医療機器用の精密制御システム
→ ファナック、安川電機、川崎重工などのロボットメーカーにも部品供給を行っており、日本の自動化産業の縁の下の力持ちともいえます。
④ 鉄道・交通インフラ
- 新幹線、在来線車両向けのブレーキ制御センサー
- 自動ドア開閉装置用のモーター制御ユニット
- 地下鉄のホームドアや信号システム向け部品
→ 安全性が最重要となる交通分野でも採用されており、「信頼の多摩川」として業界から評価されています。

■ 技術的な強み
◉ 小型・軽量・高精度
多摩川精機の製品群は、「航空・宇宙に使える精度と信頼性」を持ちつつも、小型化・軽量化にも優れています。
例:
- 直径2cmほどのミニチュアエンコーダで±0.001度以下の精度を実現
- 極寒〜高温、真空環境にも耐える宇宙用ジャイロスコープ
◉ カスタマイズ対応力
- 顧客の要求仕様に応じて「一点モノの設計」に柔軟に対応。
- 宇宙開発や軍需向けなど、試作から試験、量産まで一貫対応。
この「すぐれた開発力と対応力」は、航空・防衛業界の厳格なニーズに応える上で、非常に大きな武器となっています。

■ 海外展開
- アメリカ、ヨーロッパ、中国、シンガポールなどに拠点あり。
- 特にNASAやアメリカ防衛関連企業との連携もあり、グローバルな信頼を得ています。
また、海外企業との技術提携を通じ、欧州航空機器メーカー向けへの販路も拡大しています。

■ 面白いエピソード・苦労話
宇宙からのSOS
人工衛星に搭載された同社のセンサーが、地上で想定されていたよりも過酷な磁場環境にさらされ、不具合寸前まで追い込まれたことがあったそうです。
そのとき、なんと現場のエンジニアが“ある計算式”を応用して、ソフトウェアで磁場の誤差を修正!結果的にセンサーは無事にミッションを完遂しました。
これに感動したJAXAの関係者は、
「まるで宇宙版『下町ロケット』だ!」
と称したそうです。
マイナス50℃の環境試験室
飯田本社には、-50℃〜+100℃まで温度制御が可能な環境試験棟が存在します。
なんと、社員の一部は「ダウンジャケット着用で製品テスト」に同行し、センサーの挙動を手でチェックすることもあるそうです。まさに職人魂…。

■ 今後の展望
- 宇宙開発(人工衛星、小型探査機)の増加に対応した製品開発
- 次世代航空機(電動航空機やドローン)向けの制御技術強化
- 医療分野(精密ポンプやリハビリ機器)への応用拡大
特に宇宙×精密機器×デジタル制御という領域での活躍が期待されており、未来のモビリティやインフラを支える“黒子企業”としてますます注目されています。

■ まとめ:未来を支える「見えない力」
多摩川精機は、一般の人にはあまり知られていないかもしれません。しかし、航空・宇宙・防衛・ロボット・鉄道など、あらゆる分野で「命を預けられる精度と信頼性」が求められる機器をつくり続けています。
その姿勢はまさに、“見えないところで未来を動かす”、日本の誇るものづくり企業の象徴です。

■ 創業者・武藤慶三の人物像
武藤慶三氏は、1903年(明治36年)生まれ。東京高等工業学校(現・東京科学大学)で電気工学を学んだ後、エンジニアとして実務を重ね、1938年に「多摩川精機製作所」(現・多摩川精機)を設立しました。
彼は典型的な“職人気質の技術者”であり、論理と現場主義を重んじるリアリストでしたが、その一方で非常に“発想の柔軟さ”も持っていた人物です。

■ 創業当時のエピソード①:部品をつくる機械を“自分でつくる”
多摩川精機創業の初期、最大の課題は機械部品を加工するための設備が何もなかったことでした。
市場にはまだ「精密加工機械」が十分には出回っておらず、資金もない。そこで武藤氏は、
「部品をつくるための工作機械を、まず自分で作ってしまおう」
という驚きの決断をします。
- 鉄板を切って、旋盤を自作
- 絶縁材料を手加工で削って、自前の絶縁体製造機を製作
- 精密ギアすら、自社で手作りする体制に
つまり、「ゼロから1」ではなく、「マイナスから1を作る」というレベルの開発でした。
この“何でも自分たちで作る精神”は、今の多摩川精機のDNAにも受け継がれています。

■ エピソード②:「会社を長野に移した本当の理由」
創業当時は東京の多摩川近辺(現在の東京都大田区)にあった同社ですが、戦後の混乱と、空襲の危険を避けるために、1945年に長野県飯田市へ本社を移転します。
表向きは「疎開のため」とされていますが、実は武藤氏の中にはもう一つの理由がありました。
「自然が豊かで、真面目な人が多い地方でこそ、“本当のものづくり”ができる」
つまり、大量生産・都会の効率化よりも、“真摯な技術力”を大切にする土壌を求めたのです。
飯田の土地柄に惚れ込み、今でも本社と主力工場が変わらずこの地にあるのは、創業者の哲学のあらわれと言えるでしょう。

■ エピソード③:社員教育への情熱
武藤氏は、学歴よりも技術と人柄を重視する人物でした。そのため、地元の若者や高卒社員を積極的に採用し、次のような育成制度を取り入れました。
- 現場での実習と理論の両立
- 失敗を許す「試作チャレンジ制度」
- 製図・電気・材料の基礎講習の実施(まるで職人学校!)
また、工場内には**「読書室」や「学びの場」**が整備されており、社員は勤務終了後に自主的に勉強を続ける文化が育ちました。
彼のモットーはこうです:
「一流の機械は、一流の人からしか生まれない」

■ エピソード④:神社に技術を祈った“おまじない技術者”
非常に理論派だった武藤氏ですが、ちょっとユニークなエピソードも。
人工衛星用の高精度センサー開発に挑んでいたある時、どうしてもノイズが除去できない場面がありました。最後の手段として、飯田市内の神社に“成功祈願”へ行ったというのです。
その後、偶然なのか必然なのか、ある材料の変更が突破口となり製品は完成。
社員からは、
「社長、やっぱり神頼みも必要なんですね…(笑)」
と冗談交じりに言われたとか。理系技術者だけど、人智を越えた運も信じる柔軟な一面が感じられます。

■ まとめ:武藤慶三=“ゼロを技術で突破する男”
武藤慶三氏は、単なる経営者ではなく、**現場感覚に徹底的に根差した「実践派技術者」**でした。
- 機械がなければ自分で作る。
- 東京よりも「技術に向き合える土地」を選ぶ。
- 若手を育て、地元に根ざす。
- 論理だけでなく、たまには神頼みも(笑)
彼の信念が、現在の「見えないところで未来を支える多摩川精機」の礎を築いたのです。

■ 社名の由来の背景
多摩川精機の創業は1938年(昭和13年)。創業者・武藤慶三氏が最初に開業した工場は、東京都大田区田園調布~鵜の木エリアの多摩川沿いにありました。
当時、この地域は自然に恵まれ、比較的静かで研究・試作には理想的な環境だったとされています。
その場所にちなんで、会社の名前も「多摩川精機製作所」と名付けられました。

■ 創業当時の風景
1930年代の多摩川沿いは、まだまだ田畑が広がる郊外的な風景で、工場と住宅がまばらに存在する程度。そんな中で、武藤氏は「静かで落ち着いた場所で、こつこつと精密技術に向き合える工房」を目指しました。
つまり、
「多摩川のほとりで生まれた精密技術」=多摩川精機
というのが、社名の由来になっているのです。

■ 本社移転後も社名は変えなかった理由
戦後の1945年、多摩川精機は戦火を避けるため長野県飯田市に本社を移します。しかし、それ以降も**「多摩川精機」という社名は変えずに継続使用**しています。
これは、創業時の原点や精神を忘れないという、創業者の哲学を引き継ぐ象徴的な意味があると考えられています。

■ 補足:社名を変えないことの価値
他の企業では、本社を移したり事業転換したりすると社名を変更するケースもありますが、多摩川精機はそうしませんでした。それは、次のような意味を込めているとも言えます。
- 技術者としての原点への敬意
- 多摩川で始まった「日本の精密技術」を継承する決意
- 国内外で確立されたブランドとしての価値の維持
サプライチェーン情報
弊社の流通中古市場調査で、多摩川精機製の製品・部品は約450種類確認されています。
また互換・同等の製品・部品を供給している会社はありませんでした。
上記のサプライチェーン情報は2024年01月に調査した流通在庫データをベースにしていますので日時の経過によって変動いたします。
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